はじめに

日本学術会議第6部会員、地域農学研究連絡委員会委員
東京農業大学理事長 松田 藤四郎



 日本学術会議第6部地域農学研究連絡委員会は、第17期の活動のテーマを「砂地農業の現状と将来展望」に決め、日本砂丘学会の全面的な協力をえて、初年度(平成10年7月22日)は徳島市で、昨年度は東京農業大学でシンポジウムを開催した。本年度はパート3として鳥取市で、日本砂丘学会と鳥取大学農学部並びに鳥取大学乾燥地研究センターの共催をえて実施することになった。
 昨年度の東京農業大学で行ったシンポジウムでは、世界の沙漠・写真展も砂丘学会の協力でシンポジウムと並行して展示したところ、学生、一般参加者から大変な好評をえたので、今年は世界を視野に入れてサブテーマを「砂地農業から世界の乾燥地農業へ」としてシンポジウムを開催することになった。
 我が国の砂丘地は、総延長3万4,000kmに及ぶ海岸線に沿って23万9,000haの面積を持つ。そのうち耕地に利用されているのは約8万1,300haで、耕地に適した多様な畑作物が栽培されている。不毛な砂地を肥沃な農耕地にかえ、特徴ある農業を発展させてきた背景には、長年にわたる農民と農学者、行政の協力があってのことであり、そのノウハウの蓄積は鳥取大学乾燥地研究センターを中心に世界的に高いレベルにある。世界の乾燥地面積は、地球陸地の40%、しかも毎年約600万haの農地が沙漠化している。日本の研究成果が世界の乾燥地農業の発展に貢献し、さらに世界の研究者との交流を深めることによって、研究が一層深められ、人類の食料・環境問題の解決に役立つことこそ実学としての農学の使命ともいえる。
 地域農学は、地域固有の農業、農村農民に関わる諸問題の解決を図る実践的農学であり、それらの諸問題の解決には農学分野からばかりでなく、地域固有の自然、文化、社会経済的諸条件に関わる諸分野の学問との連携が必要である。地域農学研究連絡委員会には、今年30の学会が登録されている。
 学問の進歩は、専門の深化を通して多様化の方向にますます進んでいる。農学もまたしかりであり、日本学術会議第17期の第6部農学の登録学会数は145にものぼっている。研究会を含めれば、その2〜3倍になると思われる。しかし、農学は実学であり、総合学である。デシプリン化した専門をいかに深めても、それだけでは、現実の農業、農村、農民問題は解決できない。明治農学の始祖横井時敬が、「農学栄えて農業滅ぶ」(一説には衰ろう)と警世の句を残したが、今日の日本農業の衰退と農学の進歩は、まさに横井の危惧と一致するのではないか。
 今回のシンポジウムは、そのことに思いを馳せ、一歩でも現実の問題解決に向かう企画である。最後に、講演者、コメンテーターの諸先生にお礼を申し上げるとともに関係者、参加者の皆様のご協力により、このシンポジウムが盛会であることを期待して、ごあいさつといたします。


平成12年6月16日開催「日本学術会議第17期第3回地域農学研究連絡委員会講演会」
テキストより転載