土壌劣化に伴う土壌侵食の進行と防止

鳥取大学農学部 田熊 勝利

  1. はじめに
     乾燥地の土壌は、直接太陽の下にさらされ、気温が高く表土がはげしい風化作用を受け、土層から塩類の溶脱が急速に進む。また有機物の分解が早く、有機物の供給が途絶するので、それでなくても少ない土中の有機物は、またたく間に分解されてしまう。
     降雨量より蒸発量が大きいということは、土の中での水の動きが、上昇運動が支配的であることを示す。そのため水に溶解している物質が、水と共に上昇し地表に運ばれ水分が蒸発するとそこに残されて集積することになる。カルシウム、マグネシウムとナトリウムなど水に溶解されやすい塩基分は、水中に含まれている塩素イオンなどと結びついて地表に蓄積され、塩類が集積し、塩類土壌となる。また、表土の荒廃と土壌流亡は団粒構造の発達していない下層土の裸出へとつながり土壌の劣化へと進行する。
     土壌劣化による作土層及び下層土の物理的性質の解明と、土壌劣化に伴う土壌侵食・流出の防止策を検討する。

  2. バハカリフォルニアの降雨特性について
     バハカリフォルニア半島の年間降雨量および年平均気温は、メキシコ国南部では1000mm以上の降雨量があり、北部並びにバハカリフォルニア半島では、100o以下であり、特にバハカリフォルニア半島は300o以下となっている。  マートンヌは乾燥指数として(1)式を提案している。
      T= P/(t+10)・・・・・・・・・(1)
    ここで、Tは乾燥指数(o/℃)、Pは年間降雨量、tは年平均気温(℃)である。 Tによる乾燥地の分類は次のとおりである。
     乾燥指数(T)の値が
    5以下:
    砂漠
    10以上:
    乾燥農業が可能
    20以下:
    灌漑農業
    30以上:
    森林形成
    これをバハカリフォルニア半島に適応してみると、南部並びにカリフォルニア湾岸地域では大体年間降雨量が多くて300o位、気温が26℃以上であり、またその他の地域が降雨量100o程度、気温20℃位としてマートンヌの乾燥指数を計算すると、前者がT=8.3で砂漠に近くて農業をするには潅漑が必要となり、後者がT=3.3で砂漠地域となる。いずれも農業をするには水文気象学的にはかなり厳しい条件の地域と考える。

  3. バハカリフォルニアの土壌特性について
     メキシコにおける土壌型は非常に複雑であり、少なくとも約15種類のタイプに分類できる。一般的にはRhegosol、LithsolとXerosolの3土壌型が国土面積の大半を占めている。ここバハカリフォルニアにおいても、RhegosolとLithsolが面積の半分以上を占めており、Rhegosolが半島の南から中北部にかけて分布している。また、南バハカリフォルニアは、その他にYermosolとSolonchakが大きく分布し、半島の北と南では土壌型が大いに異なっている。Rhegosolは土壌構造の断面発達のみられない土壌である。バハカリフォルニアにおける土壌はいずれも有機物に富まず、非常に侵食を受けやすい土と考える。
     土壌侵食量予測式は一般的には(2)で与えられる。
        A=R・K・L・S・C・P ・・・・・・・(2)
    ここで、A:
    単位面積当たりの予測流亡土量
    R:
    降雨係数、各地域の降雨侵食指数を数値化したもの。
    K:
    土壌係数、単位降雨係数当たりの流亡土量を与える係数で土壌固有の係数。
    L:
    斜面長係数、基準斜面長に対する比率から求められる係数。
    S:
    傾斜係数、斜面勾配の関数で、基準勾配ではS=1.0となる。
    C:
    作物係数、作物の種別とその生育状態で定まる係数で、休閑裸地状態を基準値C=1.0とする。
    P:
    保全係数、畝立て方向、等高線栽培など保全的耕作の影響を示す係数で、平畝、上下耕を基準値P=1.0とする。

     この地域においては、一部を除いて年間降雨量300o以下であり、いわゆる水食を受けない地域と推定され、写真一1に見られるように土壌侵食防止対策の必要はないと考える。しかし、降雨が少ないとはいえ雨季シーズンに集中的に激しい南が降るところから、土壌流亡はかなり生じているものと考える。これには短期間降雨による式の適用を考える必要がある。
     次に土壌係数のKであるが写真−1に示すように、バハカリフォルニアにおける土壌は、土壌構造の発達がみられず、シルト分に富んだ、そして有機物を含まないある程度粒径のそろった土壌が多いと推測する。降雨があれば土壌流亡を非常に受け易いと考える。これらにはやはり土壌改良と作物係数Cと保全係数Pの導入による制御しかない。作物係数の低下をはかるためには横に広がる作物を導入するしかない。立てに伸びるとうもろこしやサトウキビではだめである。また土木工法的にも承水溝設置などによる土壌侵食防止対策を考える必要がある。そして土壌の構造を発達させるには堆肥などの有機肥料の投入が必要である。
     写真−2は典型的な土壌流亡の様相を示す。この土壌は遠方に見える山からこの地に運ばれ堆積したものと思われる。その後の降雨により長年月の間に二次的水食を受け続けているものと推測する。この土は写真−3に見られるように、土壌侵食形態が横への広がりよりは縦方向への侵食であり、いわゆるX型ガリ侵食の様相を呈している。この侵食形態はシルトから粒土質に富み、有機物に乏しい土壌で起こる。このような例は中国の黄土高原の土壌も同様な形態を示し、また、日本の南九州に分布するシラスにも見られる。この土も水食を非常に受けやすくもろい土である。写真−4、−5は、上流端と下流端での侵食状況であるが、土壌流亡が下流端より上流部へ向かって侵食を起こすことを如実に示している。

  4. あとがき
     バハカリフォルニア半島の山間部には、岩石砂漠、礫砂漠(写真−6)があり、また中山間地、平地から海岸部にかけては土砂漠、塩砂漠と砂砂漠があり、全砂漠形態がある。そして岩石砂漠と塩砂漠を除いて、かなりの地域が水さえあれば農地化が可能である。この半島においては年間降雨量300o以下が大半の面積を占めており、河川が所々にはあるが、すべて干し上がっており、現状では湧き水や地下水に頼らざるを得ない。しかし水はかなり塩分を含んでいる可能性があり、塩分のリーチングと水確保の課題が重要である。
     土壌流亡防止対策には、土壌が土壌流亡を受けやすい土であるので、堆把などの有機肥料の投入による土壌の構造を発達を促すこと、そしてとうもろこしやサトウキビなどの上に伸びる作物ではだめで、横に広がる作物を導入することなどが考えられる。

平成11年12月16日(木)開催「市民公開講座」テキストより転載