沙漠の土壌について
鳥取大学農学部 本 名 俊 正
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- はじめに
「土」というとどんな土が思い浮かぶでしょうか。土にも様々な種類がある。鳥取県の中でも大山の黒ボク土のように黒い土、岩美郡や泊村に見られる赤い土、黄色い土、水田のように灰色の土、そして森林の下には褐色の土もある。高山帯に分布する土壌と平野部の土壌、あるいは寒冷地と熱帯の土壌ではそれぞれ特徴がありずいぶんと違う。日本全体ではさらにいろいろな種類があり、世界的に見れば地球上にはじつに多種多様な土壌が存在している。
日本のようにモンスーン気候下では、雨が多く(年間の降水量・日本の平均は約1,700mm、鳥取市は、約2,000mm、湿潤地)植生の極相は森林である。森林の土壌には有機物の層(これを腐植層という)があり、一般に安定な塩類、窒素・リン酸(有機物に由来する)の物質循環が形成されている。しかし降水量が多いために、土壌中の塩類は徐々に水中の水素イオンと交換して下方に溶脱され、長い間には土壌は少しずつ酸性が強くなっていく。
多くの土壌は気候帯に沿って分布している。そのような土壌を成帯性土壌というように、土壌は、乾燥や湿潤などの気候と共に、そこに育成する植物の影響を大きく受ける。
- 沙漠の土壌
それでは沙漠の土壌にはどのような特徴があるのだろうか。沙漠というと、鳥取砂丘のようにどこまでも砂が続いている砂沙漠を考える方が多いようだが、砂沙漠はその一部で、礫沙漠、粘土沙漠、岩沙漠などいろいろな沙漠がある。古くから農業に利用されているのは、ある程度粘土質の沙漠の方が多い。また沙漠は赤道近くにも分布するが、むしろ赤道からやや離れた地域の方が多く、北海道よりも緯度の高い地域にも多くの沙漠が分布している。近年これら世界中の沙漠が徐々に、そして急速に拡大しつつあることが、非常に大きな問題となってきている。
いずれにしても沙漠は示したように、蒸発量が降水量を上回る乾燥した気候下に発達する。このような地域では、土壌中の物質循環は湿潤地とは著しく違っている。つまり、乾燥地では土壌中の水の水の動きは下方から上方に向かって移動するために、塩分は洗い流されることなく土壌中に集積していく。そのために長い間には自然の状態でも沙漠の土壌には多量の塩分が集積する。特に地下水位が浅い場合は、極めて急速に塩類が集積する。
また土壌中の水に溶けている塩類(水溶性塩類)は、一定濃度を超えると植物の吸水を困難にさせる。特にナトリウムによる影響が大きく、これまでにもナトリウムを中心に多くの研究が行われてきている。もともと降水量も少なく、水分が少ない条件の所に高濃度の塩類が加わると、植物の生育は不可能になってしまう。そのために、沙漠ではこの厳しい環境に適応した極わずかの植物しか生育できない。
また、土壌中にはほとんど有機物(腐植)がない。有機物を餌とする微生物も存在できない。そのため沙漠土壌は、森林土壌のような団粒構造に富んだホカホカした柔らかさと、強い緩衝力を持った土壌とは全く正反対の、層位の分化もなく、単粒構造で、極めて堅く締まった、変化に対する緩衝力の弱い土壌となっている。地温の日較差はじつに50℃以上にも及んでいる。
- 塩類化の歴史
乾燥地での農業には潅漑は必須の条件であり、潅漑によって生産は飛躍的に増大してきた。大きな河川や湖沼の水あるいは地下水が利用されてきた。自然状態の土壌では、通常表層には水にやや溶けにくい塩類が集積し、少し深い部分にナトリウムを主体とした溶けやすい塩類が集積している。このような自然の土壌に、人為的に潅漑水をかけると、土壌中の塩類分布に大きな変化が生まれてくる。先にも述べたように、農耕地としては一般にやや粘質な土壌が利用されるため、不適切に大量の潅漑が行われると、排水施設が十分でない場合、表面と土層の深い部分が毛管水でつながり、地表面での蒸発に伴う水分が地中深くから供給され、地表面で塩類を残して蒸発する。このことの繰り返しで短期間に大量の、特にナトリウムを主体とした塩類が集積する。塩類の集積が過剰になると植物は生育できなくなり、耕地としては使えなくなり、最後は放棄するしかなくなる。これまでも無理な潅漑が多くの農地を荒れ地と化して放棄してきた。
塩類化には潅漑の性質も大きく影響する。乾燥地の潅漑水は河川水でも地下水でもある程度の塩分を含んでいる。長い目で見ればやはり塩分を供給することにもなる。不適切な潅漑をさけ、注意深い管理が重要である。
潅漑は注意深く行われれば作物生産と共に過剰の塩類を洗脱除去する効果もある、しかし、乾燥地での潅漑は長い間には土壌が塩類化してくることは避けがたいことである。潅漑の歴史は同時に塩類化の歴史でもある。
またナトリウムを多く含む土壌、あるいは不適切な潅漑でナトリウムが多量に集積した土壌では、炭酸イオンあるいは重炭酸イオンと結びついてpHが8.5〜10の高いpHを示す土壌もある。このような土壌では植物は困難であり、種々の改良が必要である。
沙漠の土壌は変化が少ないといわれるが、自然土壌、潅漑土壌ともに実に多様な性質を持っている。それらを上手にしかも持続的に利用しようとすれば、基本的な性質を十分に把握し、対処することが極めて大切である。
- 土と文明
世界の4大文明は全て乾燥地の大きな河川の流域で発達したといわれている。適切な潅漑が行われ、十分な生産が上げられて初めて文明は成立したわけである。しかし、その高度な文明も、土壌の荒廃と共に、農業とともに衰退していった。我々は先人の歴史に学び、自然生態系にあった、土を大切にする、持続可能な農業を考え、進めていかなければならない。
平成9年10月25日(土)開催「市民公開講座」テキストより転載
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